LABO!

建築家 伊藤暁さんが楽しむ、未活用材の可能性

建築家 伊藤暁さんが楽しむ、未活用材の可能性

建築家の伊藤暁さんはここ数年、ご自身の設計する建築のなかで未活用材を積極的に使用しています。

未活用材を使うことの楽しさ、むずかしさについてお話を伺いました。

建築家 伊藤暁さん
1976年 東京都生まれ
2002年 横浜国立大学大学院修了
2002年~2006年 aat+ヨコミゾマコト建築設計事務所
2007年 伊藤暁建築設計事務所設立
2017年~ 東洋大学准教授

―― 未活用材は、いつ頃から使うようになったんですか。

東京に事務所があって、林業の現場が身近なわけでもなければ、材木屋さんと関係が深いわけでもない。木材に関してどういう課題があるのか、そこまで詳しいほうではありませんでした。

未活用材について知るきっかけになったのは、材木屋さんストックヤードを見学したとき。知人の住宅を設計するにあたって、外壁やデッキに未活用材を使えないかということで、話を聞きに行ったんです。

いろいろな材を見せてもらった最後に、ウエスタンレッドシダーのラフ材が山になっていて。規格品を製材するときに残ったものだという話を聞いて、すぐに「これでいきましょう」ってことになりました。

発見したウエスタンレッドシダーは、住宅の外壁に使用。色も木目もさまざまなものを一緒に使うことで、表情豊かなが外壁に仕上がりました。

デッキには、ふつうに厚さ3センチくらいの材を探そうと思っていたんです。だけど、材木屋さんで大きな無垢の板を見せてもらって。すごく立派だけど、規格外だったり穴が空いている部分があって、使い道がなかなか決まらないんだと聞いたんです。

これだけの幅や厚みがある材料って、めったにお目にかかることがないのでびっくりしました。レッドシダーって、こんなのも採れるんだって。おもしろいものに巡り合ってしまったからには、いい使い方を考えたい。結果、ほかではあまり見ないデッキができました。

デッキには樹齢数百年の大径木の丸太を、厚さ10cmに挽いた大きな無垢板を使用。

色の感じもいいし、外壁で使っても安心ということもあって、次の仕事でもこのレッドシダーを使わせていただくことになりました。

レッドシダーって木材のなかでは比較的価格が高いとはいえ、それだけの理由で選ばれないのはもったいないない。今の製材や流通の仕組みとちょっと合わないだけで、見過ごされている素材が持っている魅力がいっぱいあると思うんですよね。

―― 未活用材を使うにあたって、むずかしいことはありますか。

大変というほどではないけれど、規格品との違いでいうと、使える場面はまだ限られるかもしれません。

僕は設計者なので、自分のためというより誰か依頼してくださる人がいて、その方に対して価値を提供するのが仕事です。だから、性能が不明瞭な材料を使うというのはすごくリスクのあることなんですよね。すでに流通しているものであれば、どんな使い方をすると大丈夫なのか、ある程度把握できます。だけど、規格外のものはなかなかそれがむずかしい。

それでも、よくわからないから使わない、と簡単に判断してしまうのはもったいない。性能と金銭的な価値、素材としての魅力のバランスがとれる場面では使いたいですよね。物理的なディティールを把握することに加えて、その価値をお施主さんに伝えなければいけない。コミュニケーションは増えますが、僕、そういうの楽しいんですよ。

―― 手間は増えるけれど、楽しいんですね。

そうですね。2021年に竣工した住宅では、未活用材で広いデッキをつくりました。最初は規格品ではないものを使うことのメリットとして価格の安さについて話をしたんですが、お施主さんがものづくりに関わっている人ということもあって、未活用材を使うということ自体に興味を持ってくださったんです。



鹿嶋の住宅 写真:伊藤暁


未活用材を使うことをきっかけに、お施主さんとはよりいろいろな価値を共有できるようになった気がしています。お施主さんが自分の力ではなかなか触れられない価値を提供するっていうのが僕らの仕事の意義なんです。お客さんが知っているものの範囲でだけでつくるのであれば、僕らがやる意味がないというか。そうやって価値を共有して、一緒につくって、その後もよく使っていただけている。素材の力みたいなものにすごく助けられた例だったと思います。


―― 軽井沢では学生のみなさんと一緒に、未活用材を使った物置小屋をつくったと伺いました。

38mm角、長さ90cmという、どこの製材所にも転がっているような端材がたくさん手に入ることになったんです。家具としては考えやすいけど、建築には使いにくいサイズです。だけど、いっぱいあるし、ものすごく安いんです。その材を活かしてできることを学生たちと相談しながらつくったのが、この物置小屋です。


写真:伊藤さん提供

90cmしかないから、1本では高さが出せないわけですよ。どうやって継いでいくと高さが出せるのか。強度を保てる構造はどんなものか。学生たちと何度か合宿しながら考えて。素材の強度を確認するために、どのくらいの負荷に耐えられるのか破壊実験も行いました。

結果、一般的な建築物ではなかなか採用されない構造の組み方が実現して、建築学会で賞をいただくことができたんです。もともとの材が2mあったら、こういう使い方をしようっていう発想はそもそも出てこなかったでしょうね。

建築に携わる人のなかには、未活用材や端材をどうするべきか、どうしたら活用できるのかって、心の片隅で気になっている人が多いと思うんです。だけど、具体的にどこからアプローチしていったらいいのかがわからない。

僕はたまたまチャンスをいただいて、未活用材の可能性を楽しむことができています。まだまだ活かしきれていないものだから、今後いろいろな人がチャレンジすることで、どんどん新しい発見が生まれていくと思っています。

一覧へ
1 4