長坂さんと、ウエスタンレッドシダーの巨大丸太との出会い。
半年ほど前のこと。
とある店舗に使うための大きな無垢材を探していた長坂さんを新木場のストックヤードに案内していました。
目的の木材はすんなり見つかったのですが、他にもたくさんある面白そうな木材を紹介していたところ、ビニールシートに包まれた大きな丸太の前で長坂さんの足が止まります。
ビニールシートを剥いでみると、中から出てきたのは長さ6m、直径1.4mの巨大なウエスタンレッドシダーの丸太。
巨大なだけでなく、ウエスタンレッドシダーにしては珍しく大きくねじれ、芯も大きく偏り、外皮が丸太の中に入り込んだりしています。
製材してもどれくらい材がとれるかわからない
そのクセだらけの巨大丸太を見た瞬間に、長坂さんの目が輝きます。
「この丸太でマグロの解体みたいなことをやってみたいなぁ・・・」
そんなひとことから、いま、まさにひとつのプロジェクトがはじまろうとしています。
まず長坂さんが声をかけたのがTANKの福元さん。数多くのプロジェクトを長坂さんとともに手がけ、直近では長坂さんの尾道でのLLOVE HOUSE ONOMICHIのプロジェクトを全面的にサポートした名うての施工集団を率いています。
日本で言えば御神木クラスの大きさの、けれどもねじれてクセだらけの丸太を使って、長坂さんと福元さんとで建築・空間づくりをしようというのがこのプロジェクトです。
今回はこのプロジェクトの「施主になりたい!」という方を1名(もしくは1社)だけ募集します。
アラスカの寒さと強風に耐えて数百年の時を過ごした巨大な丸太。
この巨大丸太が育まれたのは北米大陸アラスカ南東部。
カナダの西海岸と違い、風が強いこの地で育つウエスタンレッドシダーは、強い風に耐えるからか、ねじれていることがあります。
中でもこの丸太は極端にねじれていて、6mの長さの中で180度近くもねじれています。
しかも根本の方の断面を見ると、木の芯が極端に偏っていて、木の皮が内部に入り込んだりもしています。
いわゆる偏芯木というものですが、ここまで極端に芯が偏っているものは珍しく、よほどなにかしらのストレスがかかり続ける環境の中で
数百年の年月を耐えてきたことでしょう。
それにしてもこんなにも樹皮が内部に食い込んでいることは木のプロでもなかなか見たことがないらしく、ましてやこのように日本にまで
たどり着くことはごくごく稀なことだそうです。
このようにねじれていたり、樹皮が内部に食い込んでいる材は、製材しても商品として売れる製品材がどれくらいとれるかわからないため、そもそも日本に輸入され、市場に出回ることがほとんどないのです。
けれども、この丸太になんとも言えない魅力を感じて、木材会社の社長が数年前に仕入れてきたそうです。
最初から細かく製材して売るつもりはなく、「誰かこの丸太の魅力に気づいて、使いこなしてくれる人がいれば譲りたい」と思いストックヤードで大切に保管されてきました。
正確な樹齢は不明ですが、育ちにくい環境だったからか、ゆっくりゆっくりと成長したようで、人差し指一本の太さの間に10本以上の年輪が詰まっていました。丸太の半径を考えると、数百年以上経過していることだけは確かです。
丸太を下見に来た福元さんと一緒に少しだけ数えてみましたが、あまりに木目が細かく詰まっていて途中で数えられなくなってしまいました。
なぜ長坂さんはクセだらけのウエスタンレッドシダーの丸太に惹かれたのか。
福元さんが丸太を下見に来たこの日、長坂さんは遠くオランダに。オンラインで繋いで、どんなプロジェクトにできるかを打ち合わせしました。
その中で、私たちが聞きたかったのは、長坂さんがクセだらけで扱いにくそうなウエスタンレッドシダーの巨大丸太のどんなところに惹かれたのかということ。
これまでの会話の中でなんとなくは聞いていましたが、改めて伺ってみました。
私たちの問いかけに、一瞬だけ考えてから長坂さんが発したのは
「想像ができないのがいいんだよね・・・」というひとこと。
巨大で、ねじれていて、芯も偏っていて、樹皮まで食い込んでいる。木を割ってみた時に中がどんな風になっているか外からは想像することすらできない。その想像できない状況から空間づくりをしてみたいのだそう。
そして長坂さんが最初から何度も口にしているのは「マグロの解体」というキーワード。
刺身にされたものや柵取りされたものを調理するのとは違い、まるっと大きなもののどこに刃を入れるのか、どうやっていくのかを試行錯誤してゆくプロセスこそが今回のプロジェクトの醍醐味なのかもしれません。
一般的に建築においての与件は施主の要望や、土地や物件の現況が強くあるものだと思います。
しかし、今回一番力を持っている与件はこの丸太とも言えます。どのような材がとれるのかすらわからない状況で、まずは丸太をいくつかに解体してみて、その状態にインスピレーションを得てプロジェクトが進んでいくことになるのだと思います。
そして、そんなプロジェクトの施工をやるのは「TANKさんしかいない」と長坂さんが真っ先に声をかけました。
福元さんにもそんなプロジェクトへのモチベーションをお聞きしてみました。
まず最初に福元さんの口から出たのは「僕は常さんのファンなんです」という言葉。
「もちろん、いち建築ファンとしても好きだし、施工する立場としても常さんのデザインしたものは、本当に格好いい。
だから常さんとやるプロジェクトならぜったいにやりたいし、今回のこのプロジェクトも、ぜったいに自分たちがやりたい。それにこんなプロジェクト二度とないかもしれないじゃないですか。」
「それに常さんの言うように、ほんとにどんな材がとれるのか想像もつかない丸太だけど、そういう不安もあるし、だからこそ楽しみもある。僕たちは『どうやったら実現できるんだっけ・・・』ということにチャレンジするのが大好きなんですよね。」